首相のバッグは、御代田で縫われている

やまゆり公園の隣。門の前を通り過ぎたことのある人は多いはず。「濱野皮革工藝(はまのひかくこうげい)」の軽井沢工場。所在地は御代田町大字塩野字久古池3036-43。

ここで縫われたバッグが、いま首相官邸を毎日出入りしている。

サナエバッグ

2025年10月21日、第104代内閣が発足。初登庁の女性首相が手にしていた黒いトートバッグが、首相官邸の公式X動画を通じてSNSで話題になった。

ファッション感度の高いユーザーによる「特定」が進む。正体は、濱野皮革工藝の「グレース ディライトトート」。価格は税込13万6400円。

その後、同社は公式オンラインショップに異例の「お詫び」を掲載。第104代首相が当社バッグを持つ写真が各種メディアで取り上げられている、と報告。注文が集中し、工場の1か月分の生産量を直近2日間で受注したと説明。出荷予定は、その後3月末、4月末へと延びていった。

SNSでは「サナエバッグ」「早苗売れ現象」。ニューヨーク・タイムズも報じた。御代田町の小園拓志町長もXで反応。「経済効果がすごい!」。ふるさと納税での購入を勧める投稿も拡散した。

人口1万6000人の町の工場が、一夜にして世界の視線にさらされた。

700グラムの軽さ

「グレース ディライトトート」は、同ブランドのロングセラー。公式サイトの人気ランキングで1位を獲得する看板モデル。

オールレザーでありながら、約700グラム。ハリのあるレザーを使い、芯材を最小限に抑えることで実現した軽さ。A4サイズが余裕で入る収納力。自立する美しいフォルム。働く女性の負担を軽くする設計。

「キャリア派女性の願いに答えた」と謳われる一着。デザインの普遍性ゆえに、流行り廃りがない。

刀のつばから、ハンドバッグへ

濱野皮革工藝の創業は1880年(明治13年)。

始まりは、革工芸の職人だった。和装が中心で、ハンドバッグがまだ日本にほとんど無い時代。創業者の家系は海外のファッション雑誌を取り寄せて研究し、ハンドバッグづくりに力を入れ始める。当時、多くの庶民は着物を着て、風呂敷包みを持っていた時代。

革工芸から、女性のハンドバッグへ。まだ市場が存在しなかった先で、新しい需要を自ら作った。

皇室との縁は、濱野敬之が乗馬を通じて深めた縁から、皇室への献上品ブランドとして受け継がれていく。皇后さま、上皇后さまへと続く「ロイヤルモデル」。英国の故ダイアナ妃にも献上されたと伝わる。皇室献上品ブランドの地位。

資本は、流れる

このブランドには、もうひとつの物語がある。誰がブランドを「持つ」のか、という物語。

2008年、濱野皮革工藝は東証上場企業トライアイズの子会社となる。2009年、資本が第三者に移り、濱野家当主の思う「わがままなバッグづくり」が続けられなくなる。2013年、濱野本家の現当主・濱野有が同社を離れ、別ブランド「傳濱野(でんはまの)はんどばっぐ」を立ち上げた。

そして2025年10月1日。トライアイズが濱野皮革工藝の全株式を、事業承継支援のUKETUGIへ譲渡。譲渡価額は1億3000万円。濱野家が縁あって資本を買い戻した、と公式サイトは記す。軽井沢工場の職人は、2013年までいた職人が大半。再び一緒に仕事ができるようになった、と。

つまり「サナエバッグ」が世界の話題になったまさにその月、ブランドは創業家の手に戻ったばかりだった。濱野家側は本来、年内に職人と時を語らってから来年初めに発表する予定だったが、首相とNYタイムズの報道を受けて前倒しした、という。「濱野皮革工藝」と「傳濱野」。名前のよく似たふたつのブランドが併存する背景には、この資本の流れがある。

ものを作る技術は、御代田の工場に残り続けた。だが「濱野」という名前、ブランドの価値を握る資本は、家を離れ、また戻った。技術と、その値打ちを握る権利は、別々に動く。

御代田の財政と、一つのバッグ

濱野皮革工藝は、ふるさと納税返礼品の提供により、御代田町から「プラチナ事業所」として表彰されている。同町のふるさと納税で、常に売上上位のバッグ。

御代田町の令和7年度のふるさと納税見込みは約6億3650万円。町税、繰入金に次ぐ第3の自主財源。その柱を、このバッグが支えている。

ベアリングのミネベアミツミ、時計のMIYOTA。御代田は「世界に出ていく見えない部品」を作り続けてきた町。そこに、皇室と首相が持つバッグが加わる。共通するのは、小さな町の工場が、誰もが知る価値の流れの末端ではなく、源泉に立っている、ということ。

価値の流れを握るのは、「どこで作るか」ではなく「誰がその名前を持つか」。濱野家が12年ぶりに名を取り戻した同じ月、その名のバッグは首相官邸を歩いていた。

本稿はAIを用いた下調べをもとに執筆。内容は一次情報を確認した上で掲載しています。なお、私は高市首相の政治姿勢には疑問を感じているものなのであえて首相としか記載しませんでした。

声と権利の歴史をたどる拙著
『再生ボタンの裏側ー音楽と権利の300年』
もあわせてどうぞ。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0H22R5S1P

参考:

濱野皮革工藝 公式オンラインショップ「わがまま/再び参画」 https://shop.hamanobag.com/

御代田町長・小園ひろし 公式X(2025年10月24日) https://x.com/miyotamayor

株式会社トライアイズ プレスリリース(2024年9月3日、PR TIMES) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000124346.html

トライアイズ、濱野皮革工藝の全株式をUKETUGIへ譲渡(M&A Online、2025年9月16日) https://maonline.jp/news/20250916i

「異例の『サナエ売れ』高市首相愛用の黒トートバック」(日刊スポーツ、2025年10月26日) https://news.yahoo.co.jp/articles/e11bb861b7c5441cab2860c2bb72609a4c0bdaf9

「高市早苗首相のお仕事バッグ、皇室にも愛される日本の老舗ブランドだと話題に」(東京バーゲンマニア、2025年10月23日) https://news.yahoo.co.jp/articles/35419efb42b66c1553c4da74c690ffad93bfca12

長野県御代田町 ふるさと納税返礼品(ふるさとチョイス・濱野皮革工藝) https://www.furusato-tax.jp/search?q=%E6%BF%B1%E9%87%8E%E7%9A%AE%E9%9D%A9%E5%B7%A5%E8%97%9D

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